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『Very Naughty Boys:The Amazing True Story of HandMade Films 』。 [etc, etc.]

昨日イギリスのコメディ・グループ・モンティ・パイソンが記者会見を開き、再結成を表明しました。イギリスでコメディといえば真っ先に名前があがるであろうモンティ・パイソン。私は昨日の夜BBCワールドニュースを見ていたのですが、ニュースの途中でいきなり画面が切り替わり、記者会見の模様が生中継されました。それだけすごいグループということですね。いいタイミングなので、今日はパイソンの映画にまつわる本をご紹介します。少し長い記事になってしまいましたので、御用とお急ぎでなければおつきあいください。

1980年代にイギリスの映画界を席巻した映画製作配給会社・ハンドメイドフィルムス。『ライフ・オブ・ブライアン』『モナ・リザ』『ウィズネイルと僕』などを世に送り出したことで熱心な映画ファンには知られていますが、この会社の内幕を書いた本が『Very Naughty Boys:The Amazing True Story of HandMade Films 』。この本、最初『Look on the Bright Side of Life』というタイトルで2003年に発売されたのですが、その後先のタイトルに変えて再度発売されました。内容は、会社設立のいきさつ、映画製作の裏話、関係した人々の人間模様など。著者のロバート・セラーズは多くの関係者に取材をし、80年代のイギリスでユニークな存在感を示した映画会社の栄枯盛衰を描いています。

事のはじまりは、モンティ・パイソンが製作を目指した『ライフ・オブ・ブライアン』という劇場用映画でした。脚本が完成し、EMIの出資も取り付け、後は撮影に入るというところで、直前になってEMIが出資の撤回を決定(上層部が脚本に難色を示したため)。製作費400万ドル(!)のあてがなくなり、困ったパイソン・チームは国内で出資先を探しますが見つからず、出資先を求めてハリウッドにも飛びましたがそれも空振り。最後にエリック・アイドルやマイケル・ペイリンと親交があったジョージ・ハリスン(元ビートルズ)に支援を求めます。パイソンマニアだったジョージは快諾し、当時ビジネス・パートナーだったデニス・オブライエンと共同出資の形をとってハンドメイド・フィルムスを設立。自宅を担保にして銀行からお金を借り、全額を出資しました。この支援のおかげで映画は完成、公開されると物議をかもしながらも大ヒット作品に。それに続き、テリー・ギリアムが監督した『バンデットQ』、映画は完成していたものの引き受けてがなかったため買い取った『長く熱い週末』(ボブ・ホスキンス主演、ヘレン・ミレン出演)もヒットになりました。ジョージは、元は俳優志望で舞台経験もあった友人のパーカッショニスト・レイ・クーパーを代表にし、「エキセントリックな才能のルネッサンスを」をモットーに、大手の映画会社からは出資を見込めない映画の製作や配給先が見つからない映画の配給に力を入れていきますが…。ちなみに会社のロゴをデザインしたのは、テリー・ギリアム。

埋もれかけた才能を発掘するため、お金は出すがあまり口を出さず、なかなか表舞台にも現れないジョージ。ある意味理想的なパトロンのはずなのに、元ビートルズの威光を期待する向きからはあまり評判がよくなかったようです。しかし、実際にジョージに会ってその飾らない人柄に触れた人々は、みな一様にジョージのことを称えています。一方、根っからのビジネスマンで映画業界には疎いデニス。しかし「お金を出しているのは自分」という態度をとり、作品選びに必要以上に関与したり、完成した作品を観て不要と思った部分を勝手にカットしたり、製作費をきちんと払わなかったりします。そのせいで製作陣ともめることもしばしば。実際パイソン・チームの一部とはかなりこじれ、1982年の『モンティ・パイソン・ライブ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル』を最後に、パイソンはハンドメイド・フィルムスと袂をわかつことになります。元々は「パイソン映画救済プロジェクト」から始まったのに、皮肉な結果となってしまいました。

また、手がけた映画の中には佳作も多かったようですが、興行的には今ひとつなことも少なくなく、すべてがバラ色とはいきませんでした。それでもニール・ジョーダンが監督した『モナ・リザ』が大ヒットしたり(特にホブ・ホスキンスは主要な映画祭で主演男優賞を多数受賞)、イギリスでは今でも青春映画の傑作と言われている『ウィズネイルと僕』(リチャード・E・グラントのデビュー作)を生み出したりして、輝きを見せた瞬間もありました。しかし、ショーン・ペン主演、マドンナ共演だけが話題になった『上海サプライズ』が大失敗、このあたりから少しづつ歯車が狂っていきます。『トラック29』(若きゲイリー・オールドマンが出演)、『広告業界で成功する方法』(リチャード・E・グラント主演)等が作られましたが、興行的にはパッとせず。そして追い討ちをかけるように、デニスの裏切りが発覚。ハンドメイド・フィルムスは80年代の後半には巨額の負債を抱えていたのですが、共同出資のはずだったのに実際にはジョージの単独出資となっており、負債はすべてジョージの肩にのしかかることになってしまったのです。またデニスは、お金のことをすべて任されていたのをいいことに、好き放題に使い込んでいたようでした。この一件で深く傷ついたジョージはデニスを告訴、その後映画製作から撤退することを決め、ハンドメイド・フィルムスを売却することになります。売却前の最後の作品は『ナンズ・オン・ザ・ラン~走れ!尼さん!』(エリック・アイドル主演)でした。ハンドメイド・フィルムスはその後も何度か売却されましたが、現在も存続し、少ないながらも映画を製作しています。

長年のジョージ・ハリスンファンの私からすると、終盤ジョージが会社を手放すあたりは涙なしでは読めないのですが、今まで情報が非常に少なかったハンドメイド・フィルムスの内情を知ることができ、総じて大変面白く読みました。パイソン・チームは存命の全員がインタビューに応じ、マイケル・ペイリンは心に響く序文も寄せています。他の作品の制作者や俳優たちも、多くがインタビューに応じて映画製作や撮影現場の裏話をたくさん聞かせてくれています。デニスと対立した製作者側からは時に恨み節も聞かれますが、映画の製作費用をねん出できず、ハンドメイド・フィルムスを頼らざるを得なかった実情もインタビューからは浮かび上がってきます。マイケル・ペイリンが「私の他にも多くの人間が、ハンドメイド・フィルムスが今もイギリスに存在していたら、イギリスの映画界はもっとよくなっていたに違いないと信じているだろう」と語っているところを見ると、ハンドメイド・フィルムスがイギリスの映画界に残した足跡は小さくなかったようです。

ジョージファン、パイソンファン、上にあげた作品のファン、そしてイギリスの映画界に興味のある方にもお勧めの作品です。今のところ英語版しかありませんが、もし興味をもたれたらお手にとってみてください。(以下のリンクをクリックするとアマゾンの商品紹介ページに飛びます)

Very Naughty Boys: The Amazing True Story of HandMade Films


【11/24追記】Pythonline's Daily Llama というサイトで著者が書いた執筆の経緯を読むことができます。ご興味ある方はこちらもどうぞ。

Pythonline's Daily Llama - 'VERY NAUGHTY BOYS' CHRONICLES HISTORY OF HANDMADE FILMS
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コメント 4

hedgehog

riekさん

丁寧な紹介文、ありがとうございました!

私が初めてハンドメイド・フィルムスの名前を知ったのは、テリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』製作の裏側を描いた『バトル・オブ・ブラジル』を読んだ時でした。へええ、ビートルズのジョージ・ハリスンが、と、すごく印象に残ったのですが、今改めて本を手にとってみると、ハンドメイド・フィルズが出てくるのはほんの数行だけ。ううむ、若い頃に読んだ本は記憶に強く焼き付くものだなあ。

追伸/BBCワールドのニュース、まんまと見損ねました。リアルタイムで観ていたら、さぞかしインパクト大だったでしょう。きー、残念!
by hedgehog (2013-11-23 16:17) 

まゆみ

riekさん

詳しいエントリーをありがとうございます。
まだ、マイケル・ペイリンの書いた序文しか呼んでいないのですが、私はそれだけで泣けてきました。著者のロバート・セラーズの献辞にも、ジョージの名前がありましたし。
私の中では『Life of Brian』という映画をこの世に出してくれたこと、テリー・ギリアムの映画を製作してくれたことだけでも、Handmade Filmsのミッションは充分に完結したといっても過言ではないと思っています。

アメリカに長く住んでいると、一般大衆のキリスト教に対する密着度の強さを、特に選挙時期になると感じます。この映画がアメリカで公開された当時の衝撃が想像されます。ジョン・レノンの、「ビートルズはキリストより有名」発言でさえあの騒ぎですから。

イギリスのキリスト教に対する感覚は、アメリカほどではないと想像しますが、それでもEMIが直前に出資を取り下げるほど、当時としては衝撃的な内容だったのだと思います。その事実だけでも、モンティ・パイソンとジョージ・ハリスンの「度胸」に脱帽します。そして、この映画を作ってくれて本当にありがとう、と言いたいです。

by まゆみ (2013-11-24 01:44) 

riek

*hedgehogさん

本当はもう少し短くしたかったんですが、ハンドメイド・フィルムスは知らない人は本当に知らないと思うので、そういう方々に向けて書いたら長くなってしまいました(汗)参考になれば幸いです。

『未来世紀ブラジル』、こちらの本にもでてきますが、ほんの数行です。デニスの理解が得られなかったと書いてあります。

>あのビートルズのジョージ・ハリスンが

ジョージは本当にパイソン系のコメディが好きだったんですよね。エリック・アイドルとニール・イネスがやっていた『ラトランド・ウィークエンド』にも出演していますし、この番組をヒントにした『ラトルズ 4人もアイドル!』という映画にもチョイ役で出演しています(ラトルズ=ビートルズのパロエディバンド。エリック・アイドルがポールのパロディやってます)。『ライフ・オブ・ブライアン』に出資したのも、自分がパイソンの映画を観たかっただけなのですが、それにしても400万ドル…調べたら当時の為替レートは1ドル=220円くらいだったので、単純計算でも8億8千万くらい?!うう、すごすぎるわジョージ…

BBCワールドニュース、本当にびっくりしましたよ。私が観てた時間では中継は10分くらいだったんですけど、とても得した気分です。

by riek (2013-11-24 11:00) 

riek

*まゆみさん

私もマイケル・ペイリンの序文では泣けて泣けてしかたありませんでした。おっしゃるとおり、数本でも映画史に残る作品を作ることができたのですから、十分役割は果たしたんだろうと思います。

『ライフ・オブ・ブライアン』に対するアメリカ公開時の反応も読むことができます。特にバイブル・ベルトと呼ばれる地域では非常に反発が強かったようです。確かにアメリカではキリスト教がとても強いですよね。よく公開にこぎつけることができたものだと思いました。

いきさつはどうであれ、この作品が世にでることができてよかったと思います。恐らく少なくない数の映画関係者の背中も押したことでしょうから。
「タブーを恐れるな!」と。

by riek (2013-11-24 11:23) 

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